日頃、楽器演奏のコンディショニングを行う中で、チェロを演奏されている方から
- 演奏中の右手首が痛い
- 腱鞘炎になってしまった
というご相談をいただきます。
チェロ演奏において、右手首はボウイング動作で重要な関節の一つです。手首の動きが硬くなってしまうと演奏のパフォーマンスにも影響します。
では、どうして右手首の痛み・腱鞘炎が起こるのか原因と対策を解説していきます。
チェロ演奏中の右手首の痛みに関して考えられる原因は主に
- 弓を持つ指の力みに伴うオーバーユース
- 演奏時の猫背・巻き肩
- 演奏時の手首の使い方による負担
の3種類が考えられます。
手首の痛みの原因の一つは、弓を持つ指を握る筋肉のオーバーユース(使いすぎ症候群)です。
指を握る筋肉として浅指屈筋・深指屈筋・長母指屈筋・短母指屈筋・虫様筋・掌側骨間筋という筋肉があります。浅指屈筋・深指屈筋・長母指屈筋は、筋肉が尺骨や橈骨といった前腕の骨から手首をまたいで筋肉が存在しています。
手首をまたぐ筋肉は、硬くなると手首を圧迫するストレスを伴うようになります。手首が圧迫される本来の可動域が動かしにくくなったり、弓の押し引きの際の手首の動きに力みが生じやすくなります。指を動かす腱が通る腱鞘といわれる筒状の組織にも負担がかかるようになり、炎症が生じて痛みを伴いやすくなります。
指の筋肉自体の力みに関しては、以前記事にじているのでそちらも参考にしてください。
チェロの弓操作で指が力んでしまう原因と対策をご紹介!また、手首自体の動きが過剰でも痛みを伴います。
写真にある撓側手根屈筋・尺側手根屈筋・長橈側手根伸筋・短橈側手根伸筋・尺側手根伸筋が手首のコントロールに関わっており、これらの筋肉に過剰な負担がかかることでも手首の痛みにつながります。
演奏時の猫背や巻き肩もチェロ演奏時に右手首の痛みの原因のひとつです。手首なのになんで上半身と肩が関係するの?と思われがちですが、大きく関係します。
右の弓を動かす軸がどこになるかというと胸骨と鎖骨がつながっている胸鎖関節という関節です。そして胸鎖関節を軸として肩甲骨が胸郭(肋骨)に対して上下・左右に動きながら腕を動かす土台となって動いています。
実際にチェロの運弓の一つの動作をピックアップしてみましょう。胸鎖関節を動きの軸として弓を引くときは肩甲骨が背中によるように動きながら、肩関節を開き、肘を伸ばし手首を親指・手の甲側にへ反らしながら動きが広がっていきます。逆に弓を押す動作のときは、手首を手のひら側に倒しながら肘を曲げ、肩を胸の方に曲げ、肩甲骨が外に開くよう連動して動きます。
猫背・巻き肩になると肩関節が前方に突き出るストレスがかかるようになります。腕の動き自体も、肩甲骨から引き出せなくなり、肩関節後面にある三角筋後部線維や棘下筋、小円筋といった筋肉に過剰に負担がかかるようになります。
弓を引くための動きを確保するために本来は肘を伸ばしながら行います。しかし、猫背・巻き肩で肩関節が前側に突き出るストレスがかかっていると上腕にある上腕二頭筋や前腕にある腕橈骨筋という筋肉に力みが生じるようになり、手首を手の甲側に反らせるストレスが強くなります。
前述した前腕にある腕橈骨筋という筋肉に負担がかかりつづけ、過剰に働くことで手首の痛みにつながるのです。
ボウイングをする際、手首を小指側に倒す尺屈を伴って固定する人がいらっしゃいます。手首を安定させるために働く筋肉が弱かったり、手首を固定して使おうとすると尺屈する傾向にあります。
手首を小指側には、三角線維軟骨複合体(TFCC)と呼ばれる軟骨や靭帯などが集まる組織があり、尺屈が繰り返されるとTFCCに負担がかかるとともに親指の付け根にも負担がかかるようになります。
尺屈した状態では、指を握る力も発揮しにくくなり力みを生じる原因にもなります。
手首の痛みをそのままにしておくと最終的には腱鞘炎になります。腱鞘炎になるとしっかりと治るまでに時間がかかるとともに、安静にして痛みが取れたとしても同じ負担がかかる状態が変わらないと再発のリスクが高まります。
では、同対処したら良いのでしょうか。
腱鞘炎や手首の痛みを伴う方の多くは、手首を過剰に固定しすぎている事が多いです。チェロのボウイングにおいては、手首の過剰な固定は負担にしかならないと考えます。
手首の動きは、弓を引く動作のときは、手首の小指側から動かし、弓を押すときは手首の親指側から動かすようなイメージにすると以下の写真のような自然な手首の動きを伴うようになります。
弓を引く動作では手首が甲側・親指側に倒れるように動き、弓を押す動作では、手のひら側・小指側に倒れる動きになるように動けると手首を固めることは最小限になります。
しかしながらこの動きには肘の曲げ伸ばしがとても大事になります。弓を引く動作のときには肩を開くと同時に肘を伸ばし、弓を押す動作のときには肘を曲げながら肩を閉じていくという動きが大切になるため、手首の動きが上手くできない場合は、肘・肩・肩甲骨の動きにも着目する必要があります。
まずは、猫背・巻き肩にならないように日常生活から注意していく必要があります。楽器演奏中の猫背・巻き肩姿勢は、日常生活においても起こっている可能性が高いです。
デスクワークをされたり、椅子やソファーの背もたれに寄りかかってスマートフォンを操作したりなどふと気づくと猫背になっていたりするものです。
ですので、日常生活から姿勢の崩れを感じる方は骨盤を立てるように座ったり、頭の上から紐で吊られたようなイメージで座るなど、姿勢が崩れないような工夫をしてみましょう。
手首のストレッチをまず行うのも一つの方法です。手のひら側、手の甲側それぞれをストレッチする方法をそれぞれご紹介している動画を掲載します。
痛みの無理のない範囲でゆっくりとそれぞれのストレッチを各種20秒ずつ2セット行ってみてください。手首のストレッチを行っても痛みが出てしまう・いまいち筋肉が緩んだ感じがしない場合は、手首だけでなく上腕や肩関節、肩甲骨周囲、体幹に至るまでの柔軟性や筋力などが関わっている可能性があるため、その他のストレッチやトレーニングを行う必要があります。
ストレッチや演奏方法などを工夫しても痛みが取れない場合には、理学療法士など手首をしっかりとケアしてもらえる人に相談して見る必要があります。
手首を安定させるための靭帯や関節包など炎症を繰り返していると硬くなり、関節の動きを制限させます。そういった組織を一度緩め、関節の正常な動きを取り戻す必要があります。
これはセルフケアでは限界がある部分であり、整形外科での注射や処方箋、電気治療、鍼灸治療では痛みは取れても組織的な柔軟性は回復していないので再発の可能性が高くなります。
理学療法士や作業療法士の方の手首への関節モビライゼーションといった手技を行ってもらうのも方法の一つです。
チェロを演奏する際の右手首の痛みの原因について解説しました。手首の痛みが起こる原因は、手首の使い方荷重な原因がありますが、手首がうまく動くためには肘や肩、肩甲骨と行った部分までスムーズに動く必要があります。
また、手首の痛みが長引く場合はセルフケアでは不十分であり、医師の診察で注射と薬の処方されて終わりでは治りません。必ず手首に対して運動療法や関節に対する手技を行ってもらえる場所でしっかりとケアしてもらうことをおすすめいたします。
サポーターを付けて泣く泣く演奏を続けるとパフォーマンスも落ち、音楽家寿命も短くなります。
そうなる前に、ハルモニアにご相談ください。ハルモニアには、理学療法士が在籍し手首への施術も行っています。演奏動作からどういった負担がかかっているかも分析してお伝えすることができますのでぜひ一度ご相談ください。
また、オンラインでのコンディショニング相談もスタートしました!ジストニアなどに悩まれていたり、身近な病院・整骨院などでは楽器演奏専門に身体の使い方を考えてもらえないなど感じていらっしゃる方はオンライン相談もご検討ください。
整体サロンHarmonia(ハルモニア)は完全予約制です。以下の予約フォーム、LINE、お電話のいずれかでご予約ください。
※オンラインでの楽器奏者のコンディショニング相談に関しては、予約フォームあるいはLINE予約よりご予約ください。
※予約フォームは予約は希望時間の1時間前までです。当日予約をご希望の方はお電話かLINEが確実です。