音楽家は日々練習を積み重ねて技術の向上に取り組みますが、闇雲に練習するだけでは効率の良い練習とは言えません。楽器演奏するためには、繊細に楽器を操作する指や腕の動きを必要としますが、指や腕の動きには、全身の身体の使い方が関わっていますが、どの関節を柔軟に動かせるようにするか、どの関節をしっかりと安定させられるように力を入れるかで演奏時の身体の動きが変わってくるのです。
今回は身体の使い方の理論の一つとして最近知られてきている、Joint by joint theory(ジョイント・バイ・ジョイント理論)について解説していきたいと思います。
joint by joint 理論やjoint by joint approachなどと呼ばれて紹介されていることも増えています。
このセオリーを理解しておくと、
- 指の力みの原因がどういったところにあるのか
- ボウイングの動きのスムーズさを得るには何が必要なのか
- どういったところのアフターケアが必要なのか
- 演奏姿勢の崩れはどこからきているのか
が理解しやすくなるかと思います。では、解説していきます!
Joint by joint theory(ジョイント・バイ・ジョイント理論)は、米国の理学療法士であるGray Cook氏が提唱した考え方です。
この理論は、各関節の役割を大きく分けて
- mobility joint(モビリティ関節)
- stability joint(スタビリティ関節)
に分けており、これらの関節は、人間の関節に交互に存在すると言われています。
また、人間が行う動作は、身体の関節がそれぞれの役割を持って個別に働きながら、複数の関節を同時に共同して働かせる協調性が働くことで機能的な動作に結びついているとしています。
joint by joint theoryでは、mobility joint(モビリティ関節)とstability joint(スタビリティ関節)は、それぞれ
- mobility joint(モビリティ関節):可動性が求められる関節
- stability joint(スタビリティ関節):安定性が求められる関節
とされており、以下の図のように各関節ごとに分けられています。

モビリティ関節である股関節や肩関節は球関節で可動性・動きの方向性の富んでおり、スタビリティ関節である肘関節や膝関節は蝶番関節または蝶番関節の構造に近いものであり、動きの方向に制限があります。
- mobility joint(モビリティ関節)の動きの低下
- stability joint(スタビリティ関節)の安定性の低下
- 関節同士の協調的な働きの低下
これらがいずれでも欠けていると、関節や筋肉が適切に動かなかったり、張りや痛み、柔軟性の低下といったパフォーマンスの低下につながるのです。
では、今回のjoint by joint theoryに則って、演奏中の姿勢の崩れがどうして演奏に悪影響を起こすのか例を挙げてみます
猫背は、先に示した図の中でmobility jointとされていた胸椎が可動性を失っている状態です。するとstability jointである肩甲胸郭関節の安定性が崩れ、巻き肩のように肩甲骨が外側に開いてくるようになります。
肩甲骨が外側に開くようになると肩関節の可動性は低くなり、特定の筋肉が硬くなるような負担がかかるようになります。
この様に腕につながる関節の安定性が崩れることで、肩関節・肘関節・手関節の可動性・安定性が崩れてくるようになります。これらの崩れがいずれ胸郭出口症候群や腱鞘炎、ばね指といった疾患として現れるのです。
楽器をいくつか例として考えていきます。
フルートの場合、猫背で構えると左胸の前や肩が張り、右肩・腕の疲労感を伴いやすくなります。右腕に関しては、フルートを空中で構える力を必要とするため左腕よりも可動性と安定性の崩れの影響が強くみられ、フィンガリングに影響することもあります。
バイオリンの場合、猫背で構えるとバイオリン本体を支える左肩が力みやすくなります。ボウイングする右腕は、肩関節周囲・上腕の疲労感が起こりやすくなります。
チェロの場合、猫背で構えるとボウイングする右腕は肩関節周囲・上腕の疲労を伴いやすくなるとともに柔軟に動く必要のある手首が力みやすくなります。フィンガリングを行う左腕は、肩関節周囲の力みを伴いやすくなりハイポジションでの演奏が続くと前腕の疲労が強くみられるようになります。
ピアノの場合、猫背で構えると両肩・上腕の疲労や張りが起こり、肘関節は曲げる力が入りやすく、手首が力みやすくなります。そうなることで腱鞘炎やフィンガリングがスムーズに行えなくなると行った現象が起きます。
反り腰は、stability jointとされている腰椎・仙腸関節に過剰な筋力支持が入ることで、mobility joinである股関節の可動性と胸椎の可動性の低下を伴いやすくなります。
反り腰に加えて、楽器を構えることで猫背を伴いやすくなり、スウェイバックと呼ばれる脊柱のS字カーブが強くなる姿勢になりやすくなります。
すると、肩関節・上腕の疲労感・張りが出やすくなるとともに、呼吸を使う管楽器の場合、呼吸に置いての筋肉の使い方のバランスが崩れ、長いフレーズにて呼吸が続かない・息が吸いにくくなるといった症状を感じやすくなります。
マーチング等で重たい楽器を抱えて演奏する人は、反り腰の状態での演奏が続くと腰の痛みとともに股関節の可動性が低下するため股関節周囲の筋肉が力みやすくなります。
今回は、joint by joint theoryについてご紹介しました。各関節において特徴の違いがあることは知っていただけたのではないかと思います。
しかし、自分自身の不調がどういった原因で起きたかわかってもそれに対する対処法を知らなければ演奏中にかかる身体の負担は取り除けません。
そういった場合は、コンディショニングサロンHarmoniaへご相談ください。mobility joint、stability jointそれぞれが適切に確保できているかを確認しながら演奏姿勢や動作を加味して行ったほうがいい自主トレーニングやストレッチをお伝えすることが出来ます。
不調をそのままにしているといずれ痛みやしびれなど症状がひどくなり、演奏への支障をきたすようになります。そうなる前にお問い合わせください。
身体の負担を減らすためのボディワークなどもご提案致します。
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