バイオリン・ヴィオラを演奏中に左肩の張り・痛みを感じる方、いらっしゃるのではないでしょうか。私がお聞きした話では、四十肩・五十肩(凍結肩)になったという方もお聞きします。バイオリンを演奏する姿勢・動作は、日常生活における仕事や家事などの動きと比べて普段使わない姿勢であり、特定の筋肉をたくさん使うため、演奏姿勢を保ち続けると身体にはかなりの負担がかかります。
中でも、バイオリン・ヴィオラの肩の痛みは、楽器本体を支えるために起きるべくして起こっていると行っても過言ではありません。しかし、バイオリン奏者自身が何が原因で起こるのかわからない方も多いのではないでしょうか。
そこで、整形外科クリニックにてリハビリ業務を行っていたHarmoniaが、解剖学・運動学の観点からバイオリン演奏における左肩の張り・痛みの原因と対処法についてご紹介します。
まず、バイオリン・ヴィオラ演奏中の左肩の痛みが起こる原因についてですが、痛みが出る場所が何箇所か考えられます。いくつか考えられます。
バイオリンは、肘を曲げて手で支え、鎖骨部分に乗せるようにしながら顎当てに顎を当てて軽く支えます。その際、ある程度空中で腕を保持しなければなりません。左腕の重さは、体重の約6.5%と言われており体重50kgの人だと約3.25kgとなります。その重さを演奏中は支えておかねばならないため上腕二頭筋という力こぶの筋肉が疲労しやすくなります。
演奏中ずっと同じ姿勢を保持しているため、結果として疲労の蓄積から筋肉が硬くなり、血行不良を起こすと痛みを伴いやすくなります。
肩の外側の痛みは、筋肉だけでなく、筋膜に対するストレスが掛かっているときに感じる場所です。弦を押さえるために手のひらを外側に開くように肘から先の前腕を回外(外方向へねじる)しますが、この力がかかった状態では、先程と同様バイオリンを構える際に使う三角筋という筋肉が硬くなります。この筋肉は、単独で張ることは少ない筋肉ですが、姿勢の崩れや他の筋肉の張りから一緒になって疲労を起こし張ってしまう傾向にあります。
外側の痛みが出ている場合は、痛みの原因がここだけではないことが予測されます。猫背や巻き肩ではないか確認していく必要がありそうです。
バイオリンの弦をおさえる際に、左肘が身体の正面に入り脇を締めるような演奏姿勢になっている方は、肩の後ろ側の痛みが出やすい傾向にあります。肩と手を結んだ直線より肘の位置が内側にあると肩関節が外旋という外にねじれる力を入れる必要があるため、持続的に力が入っていると肩の後方に痛みが現れやすくなります。
奥側の弦を抑える場合にも肘が入りやすくなるため、同様の負担がかかることが考えられます。
バイオリンの背中の痛みが起こる原因に関して挙げてきましたが、それらの対処法についていくつかご紹介していきます!
急な痛みが出た際は、筋肉や腱、靭帯と行った部分に炎症が起きている場合もあるため、まずはしっかりと休むことが重要です。
バイオリンの演奏姿勢を長時間保持していることで、背中の筋肉は疲労し、限界になると張り・痛みを伴うようになります。
1〜2日しっかりと休んで痛みが消失するのであれば、まだ筋肉に疲労物質が溜まっていただけと考えられます。
しかし、3日以上休んでも演奏中の張り・痛みが取れない場合、演奏会支持から痛みが出現してしまう場合は、筋疲労だけでなく筋肉の収縮機能が落ち、休ませてあげることも必要になります。
休んで取れない場合は、筋肉が硬くなっているサイン!ストレッチが有効な手段のひとつです。前述してきたそれぞれの痛みの部位に分けて一つずつご紹介します。
上腕二頭筋を伸ばすストレッチをご紹介します。
- 棚やテーブルなどに背中向きで手を付きます
- 肩と手のひらの高さが同じになるように腰を落とします
- 胸を前に突き出すようにできれば、さらに伸びます
- 30秒2〜3セット行いましょう
痛みの無理のない範囲でゆっくりと30秒2〜3セット行ってみましょう。肩と手の高さが同じ高さになる前に張り・痛みが強くなるようであれば、気持ちよく伸びる高さまでで行いましょう。
肩外側を含めたストレッチをご紹介します。
- 左腕を胸の前に交差し、右腕で肘の部分をかかえます
- 左肘はしっかりと伸ばし、肩関節から折りたたんで赤い部分が伸びるように腕を胸に近づけましょう
- 30秒2〜3セット行いましょう
左肘を曲げて行うと赤い部分のストレッチがかかりにくくなります。また、上半身を右方向へ捻るくらいまで行ってしまうと肩よりも肩甲骨の内側のストレッチになるため、注意しましょう。
肩の後方を伸ばすストレッチをご紹介します。
- 左肩を下にして横向きに寝ます。
- 左肩を90°屈曲させ、肘を90°屈曲し天井へ手を向けます
- そこから手のひらを寝ている面に近づけるように右手で少し負荷をかけながら肩をねじります
無理にねじると肩の後側ではなく、前側や上側に痛みが出るため可能な範囲でねじってください。少しずつやっていくことで変化がみられてきますが。
何度やってもうまく可動域が増えてこない場合は、専門家に相談しましょう。関節の動き自体がうまく出来ていない可能性があります。
ストレッチしても解決しない、ストレッチの方法がわからないと行った場合は、整形外科や接骨院、整体などの身体の専門家に相談していただくのも方法です。
筋肉の伸び縮みの機能が低下して動きが悪くなるとストレッチだけでは解決しないこともあります。
整形外科は、理学療法士や作業療法士のリハビリテーションが受けられるところが良いかと思います。しかし、一般的な症状に当てはめて治療対応するため、バイオリンの特有の演奏姿勢を考慮した対応をしてもらえるところはかなり少ないと思われます。
その点、コンディショニングサロンHarmoniaは、理学療法士として働いていた経験をもつスタッフがバイオリンの実際の演奏姿勢を確認し、掛かる負担を取り除いたり演奏姿勢を安定させる『音楽に特化した整体』を行っていますので、ご相談ください。
バイオリンの左腕の楽器の支え方は、日常生活ではほとんど用いられない動きであり、慣れても負担はかかっています。その上、先に説明したようにバイオリンのネックの向きが左方向へ開きすぎると、肩関節を外旋する筋肉である棘下筋や小円筋にオーバーワークが生じます。その結果、疲労・痛みを伴いやすくなります。
そのため、ネックの向きは背中の張りを感じるところまで開きすぎないように腕の向きや上半身の向きを調整するのも方法です。その際、肩当ての高さ調整や角度調整、バイオリン本体を傾ける角度検討していく必要もあるでしょう。
また、猫背や巻き肩といった上半身・肩甲骨周りの姿勢の崩れから肩の負担は大きくなる傾向にあります。演奏中に背中の丸まりが出る方は少し胸を張るようなイメージで立つのもいいかと思います。
しかし、胸を張ると腰に痛みが出てしまう場合は、上半身の柔軟性が不十分であり、胸郭が開かないため胸を張る動作を腰で代償してしまっていると考えられます。そのような場合は、専門家に対処方法を確認したほうが良いでしょう。
バイオリンは、再三お伝えしてきたとおり、日常生活の姿勢とは異なり、普段使わない筋肉を多用する上に特定の動きが多いため疲労しやすい筋肉とそうでない筋肉の差が大きくなります。
アフターケアを含めてしっかり対処していかなければ、演奏を続ければ続けるほど負担がたまり続けます。張りや痛みを抱えたままの演奏は、フィンガリングやボウイングのパフォーマンスを落とすことに繋がりますし、最悪の場合、しびれや脱力感、フォーカルジストニアといった予期しない動きにつながってしまいます。
そうなる前に、違和感を感じた時点でなにか対応策を講じたいところです。
コンディショニングサロンHarmoniaは、埼玉県で唯一、音楽家に特化した音楽家のコンディショニングというメニューを展開しています。
痛みなどの不調に関する施術はもちろんのこと、実際の演奏姿勢から身体にかかる負担を解剖学的に捉えてより負担のかかりにくい身体の使い方の提案と使いやすい体になるためのボディワークを行います。
奏法などのメソッドをお伝えするわけではありません。骨の構造、筋肉の機能に則った身体の使い方をお伝えします。その場での疑問質問など常にお客様とディスカッションをしながらお客様の理想とする身体の軽さや演奏パフォーマンスにつながるように伴走しながらケアしていきます。
ぜひ一度ご相談ください。
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