ピアノやチェロなどの弦楽器など、手首の動きを用いることがある音楽家の方にみられることがある手首の痛み。原因の一つにTFCC損傷という手首の関節を構成する組織の損傷があります。
TFCC損傷がどういった症状で、どんなことに気をつけていったらいいのか原因と対処法をピアノの動作に基づいていくつかご紹介します。
TFCC損傷とは、三角線維軟骨複合体(TFCC)という三角線維軟骨・尺側側副靭帯・掌背側の遠位尺側関節靭帯・関節円板類似体・尺骨手根伸筋腱の腱鞘で構成される手首の関節部分が損傷することをいいます。
TFCCの役割として、
- 手首のクッション作用
- 遠位橈尺関節の安定性維持
- 橈骨手根関節の尺側支持機構
- 手関節における力の伝達
があるといわれています。
TFCCが損傷すると一般的には、
- 転んだ際に、咄嗟に手をついたら手首が痛くなった
- 椅子から経つときにテーブルに手をついて立つと手首が痛い
- ドアノブをひねろうとすると手首が痛い
- 手首の小指側が腫れる
- 手首の痛みが長期間続いている
といった症状が起きます。
ピアノであれば、小指方向の遠い鍵盤を打鍵しようと手を移動させる際に痛みが出現したり、チェロであればボウイングで手首の痛みが出現するといった症状が起きます。
では、なぜピアノ奏者やチェロ奏者などにTFCC損傷が起こるのでしょうか。
演奏中に転んで手をつくなんてことが無いにも関わらず、ピアノ演奏でどうしてTFCC損傷につながるのでしょうか。いくつ原因を挙げていきます。
ピアノ演奏において、オクターブを弾く際に親指と小指の距離をおおきくとり、手首が小指側に倒れる手関節尺屈している状態となります。
女性の方で手の小さい方の場合は、親指と小指を大きく開くのには限界があるため、幅を稼ぐために手関節尺屈が強く起こりやすくなります。
また、オクターブを弾く際、右手の場合は右肩よりも左寄りに手が位置していると尺屈した状態となりやすく、左手の場合は、左肩よりも右寄りに手が位置していると尺屈した状態となるため負担は増えます。
これらのことを踏まえると、オクターブを弾く事が多い楽曲の場合、手関節尺屈の機会が多くなるため必然的にTFCCを圧迫する機会が増え、負担となり損傷につながりやすくなります。
当たり前ですが、ピアノ演奏時は、指を動かして打鍵するため、指を曲げる筋肉を使用します。
弾くことに慣れていると指の疲労感や筋肉の張りがあっても「いつものことだから」と異変に感じない人も多いですが指の筋肉は疲労し、その疲労はケアをしていなければ蓄積されています。
指を曲げる動きを作る筋肉である長母指屈筋・浅指屈筋・深指屈筋は、肘から手首までの範囲である前腕に存在しています。
指を曲げる筋肉の多くは手のひらにないのです!
そして長母指屈筋・浅指屈筋・深指屈筋は、指を曲げる力を作るだけでなく手首を手のひら側に返す掌屈動作の際にも収縮します。
ですので、これらの筋肉が張ってしまうと指が曲がったまま状態で伸びにくくなり、手関節が手のひら側に引っ張られるストレスが増えてしまいます。
その状態で前述したオクターブの演奏などが増えると手首の関節が圧迫されるストレスと手のひら側に少し関節がずれるストレス、TFCCが圧迫されるストレスが加わり手首の関節である手関節およびTFCCに負担がかかるのです。
演奏中の手のポジションは、とても負担がかかります。
手関節の位置より肘関節の位置が低くなると手関節が掌屈した状態での打鍵となります。手関節を掌屈した状態では、指を曲げて打鍵することが行いにくくなるため、打鍵の後、MP関節から指を持ち上げる動作が優位に働きやすくなります。
この演奏動作が続くと、手関節掌屈・MP関節伸展・指関節屈曲という負担が常にかかるようになり、前述した浅指屈筋・深指屈筋が疲労しやすくなります。
さらに、MP関節の動きを安定させる虫様筋という手のひらの筋肉も疲労しやすくなります。
これらの疲労が積み重なり、筋肉自体が硬くなってくると指の関節・手関節に圧迫ストレスが加わり、TFCC損傷のリスクが高まるのです。
TFCC損傷が起こる原因について解説してきました。では、損傷を起こさないようにするためにはどんな対策が考えられるでしょうか。
前述してきたように、指を曲げる筋肉が硬くなることで手首の負担が増えるため指の筋肉をストレッチしていくことが重要です。
手のひらの筋肉である浅指屈筋・深指屈筋は以下のようなストレッチの方法があります。
手のひらを上に向けた状態で腕を前方へ伸ばし、反対側の手で人差し指から小指までの指をすべて抑えて手首を返します。
ベッドや床などで手を外側に捻り(前腕回外・肩関節外旋)、手のひらを自分の体とは反対方向へ向けた状態で手首を反らすように手を付きます(手関節背屈)。
どちらのストレッチも練習後や本番後に20秒2〜3セット行うと筋肉の張りも緩んでくるかと思います。
手首の圧迫ストレスがかかる原因に挙げたとおり、手首に負担をかけないようにするためには、「手のひら・手関節・肘関節の位置関係」が重要になります。
先に説明してきたように肘の位置が手首の位置よりも低い位置になると手首にかかる負担は大きくなります。
負担を減らすことを考えると、極力であれば肘と手首が同じ高さあるいは、肘が手首よりも少し高い位置にある方が、浅指屈筋や深指屈筋が手関節が掌屈することであらかじめ縮こまってしまった状態から開放されるため指を曲げる動きが行いやすく、打鍵しやすくなります。
また、過度にMP関節を伸展させて鍵盤から指を離すことが少なくなり、指先の関節(PIP関節・DIP関節)を伸ばす動きが出しやすくなるため、指を伸展させる筋肉である総指伸筋などの疲労も伴いにくく、手・腕全体の疲労が最小限となります。
要するに肘関節・手関節・MP関節の位置関係が直線状に並ぶように位置した状態で演奏が行えると一番手首への負担が少ないと言えるでしょう。
ピアノと身体までの距離は手首と関係ないように思われますが、実は関係しています。
ピアノと体の距離が近すぎると、肘を曲げる力が入りやすくなり手首の位置が肘よりも高くなる可能性が高くなるため、手首への負担が大きくなることが懸念されます。
逆に、ピアノと体の距離が遠すぎると空中に腕を保持しておく力を肩・腕で働かせておく必要があり、負担を感じやすくなります。
そのため、ピアノの鍵盤の上に手を置いた際に肩・肘・手首が力まない距離に個人の体格に合わせて調節する必要があります。合わせて背中・肩が丸まらないようにすることも重要です。
ここまで来ると、椅子の高さが何に関係するか薄々感づいている方もいらっしゃるかもしれません。
椅子の高さを見直すことが何につながるのか。椅子の高さが低いと手首よりも肘の位置が下がりやすく、手関節が掌屈しやすくなります。
ですので、椅子の高さを調節して肘の位置が手首の高さよりも下がらない位置まで調節できると良いかと思います。
こちらの調節の際も、猫背など背中を丸くした姿勢にならないように注意しましょう。
TFCC損傷の原因と対策についてご紹介しました。TFCC損傷を一度経験すると、手首の使い方を改め、手首の柔軟性を改善し、小指側に倒す筋肉を緩めることがとても大事になります。
セルフケアの方法を紹介しましたが、ごく一部ですのでセルフケアで解決しない場合は、手首の柔軟性を引き出す施術をしてもらえる専門家に相談しましょう。
整体サロンHarmoniaでは、TFCCの原因となる指の筋肉の張り・硬さ、手関節の柔軟性、肘・肩の筋肉の張り・硬さを筋肉に対するストレッチや筋膜リリース、関節の動きを引き出す施術、演奏中の指・手首の力みを減らすための腕の使い方といったボディワークを行います。
指関節・手関節・肘関節の動きを引き出す施術を行うため、施術が終わった後の指の動きの軽さ・手首の動きの楽さを実感される方がほとんどです。
手首痛にお悩みのピアノ奏者の方、ピアノ教室の先生の方はご相談ください。
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