ピアノを演奏していて感じる「手首のつまり感」や「手首の小指側の違和感・痛み」「親指の付け根の痛み」は、演奏ミスや集中力低下に繋がりパフォーマンスを落とす原因です。
実際に、ハルモニアをご利用いただいているピアニスト・ピアノ教室の先生で、腱鞘炎やばね指、TFCC損傷と行った症状に悩まされていた方がいるくらい、ピアノを演奏される方には身近な不調の一つです。
実は、ピアノ演奏中の手首の違和感・痛みなどの原因に、ピアノと椅子との距離が関係しているというのはご存知でしょうか。
今回は、解剖学・運動学的観点から、ピアノと椅子との距離が手首に与える影響について解説していきます。
ピアノを演奏される方に起きる手首のつまり感・痛みの原因は一体何なのでしょうか?
練習後やコンサート等の本番後に腕の張りや指の疲労感が残っていても、「いつものことだから」「1日休めば楽になるから」と思っている方は少なくありません。
ですが、ピアノ演奏しないで一般的な日常生活を送られている方に比べると指を動かす機会は圧倒的に多く、指を曲げる筋肉はかなり疲労しています。
使っているピアノの種類によって異なりますが、ピアノの鍵盤は50g前後の重さで沈むようになっています。音の強弱を表現するために強く打鍵したり、和音では複数の指で打鍵するため50g以上の力を必要とします。
そのため、1曲演奏が終わる頃には、打鍵し続けた疲労が蓄積されています。
指を動かす筋肉は、手のひらと前腕にあり、中でも、前腕部分にある筋肉が指の曲げ伸ばしに関わっています。
指の動きにくさや腱鞘炎を経験されている方の多くは、浅指屈筋・深指屈筋・長母指屈筋のあたりを押すと痛みを感じる方は多いです。
また、前腕にある指を動かす筋肉は、手首の関節をまたぐようにつながっています。
そのため、指の筋肉が硬くなると手首の関節を圧迫するストレスがかかり、力みやすくなります。
手首の関節に圧迫され、力んだままの演奏が続くと、指・手首への負担がかかり続けることで、腱鞘炎などの炎症を起こす要因となるのです。

ピアノを演奏する際、打鍵をするのは指先ですが、高音域・低音域の鍵盤へ手を移動させる際には、上半身の重心移動に加えて肩から肘、手首までが連動して動いていきます。
姿勢の崩れやピアノとの距離などの影響により、肩・肘・手首の連動した動きが行えないと、運指の動きが手首中心になることがあります。
元々、オクターブを押さえるときや和音を押さえるときに自然と手首の関節を小指側に倒すように使います。その状態で運指の際にも小指側へ倒すような動きが繰り返されると、手首への負担がかかりやすくなります。
また、演奏される方の手の大きさにより異なりますが、手が小さい方の場合、オクターブを押さえる際にも親指・小指だけでなく手首の筋肉まで自然と力がはたらいてしまう人が多いため、オクターブを押さえて演奏する機会の多い曲目では、手首負担が増えます。

手首の動きが必要以上に行われることで、手首を動かす筋肉や手首の動きを制動する靭帯などに負担がかかりTFCC損傷などの炎症が起こりやすくなります。
ピアノ演奏における指・手首の問題に、演奏中の姿勢も大きく関係します。
- 背中・腰を丸めた猫背
- 両肩が前に丸まってしまう巻き肩
- 肩が下がりっぱなしになっているなで肩
といった姿勢は、運指を行う腕を支えるための肩甲骨の筋肉がうまく働きにくくなり、肩甲骨が支えていた分の負担が腕全体へとのしかかるようになります。
はじめは気づきませんが、気づいたときには手首の締めつけ感や前腕の過度な疲労感として表面化してきます。

ピアノ演奏時の手首の痛みが起きる原因を挙げましたが、これらの負担を減らす方法を御存知でしょうか。実は、ピアノと椅子との距離を見直すことで手首の痛みだけでなく、腕全体にかかる負担を減らすことができます。
ピアノを演奏される方は、ピアノと椅子との距離に関してどれくらい考えたことがあるでしょうか。はじめにピアノを倣ったとき以降、意識することは無いかと思います。
音楽教室の先生や学校の音楽科目の指導教員で指導したことがあるという方もいらっしゃると思いますが、その理由をちゃんと説明できているでしょうか。
ピアノと椅子との距離には、腕・手首の使い方に大きな違いがあるのです。
ピアノと椅子との距離が近いと、手を鍵盤に置いたときにピアノと身体との空間が狭くなり、窮屈さを感じます。
窮屈さをなくすために、骨盤を後ろへ倒し、背中・腰を丸めて猫背になることで重心を背中側へ移動させ、腕を動かしやすい空間を作り出している方が多いです。
ピアノと近いと巻き肩にもなりやすく、肩甲骨を使った運指が難しくなり、首や胸の前側の筋肉を力ませて肩甲骨を固定し、指や手首から動く運指が起こりやすく、手のひらや前腕部分の疲労が起こりやすくなります。

背中を丸めている時間が長くなると、頭の重さを支えたり上半身でのバランスを取るために首や脇腹の筋肉が固くなるため肩こりが起こりやすく、腕を支える力が上腕二頭筋や腕橈骨筋が中心となるため手首・指が力みやすくなります。
その上、骨盤が今以上に後ろへ倒れないように、腰や太もも前側の筋肉が張り、腰痛や股関節痛も引き起こします。
猫背・巻き肩が見られ、ピアノと椅子との距離が近い状態で演奏をされていました。
窮屈な空間のまま演奏していると、脇を開きながら(肩関節外転)高音域・低音域に手を移動させにくくなり、肘を軸にして肩をねじる動き(肩関節外旋)が優先される場合があります。
すると手首も小指側に倒すように動かすようになり、手首に負担がかかるようになります。
写真のような手の運びになっている場合、手首への負担が大きい状態ので、ピアノとの距離の見直しや演奏姿勢の見直しが必要です。

ピアノと身体との距離が遠いと、一見、そんなに悪そうな姿勢には見えませんが、骨盤が前傾した状態から上半身を起こそうとしたり、肩と肘との距離が遠くになり、腕を伸ばしている時間が長くなります。
すると、反り腰になりやすかったり、肩甲骨を外に広げた巻き肩の姿勢で腕を支える必要があり、上腕から指までの力みが起こりやすくなります。
ピアノが近いときと異なり、肩の外側や肘の外側、前腕の手の甲側にある筋肉や筋膜が硬くなりやすくその影響で手首の不調を起こします。
指が動きにくくなる要因も、手のひら側ではなく、手の甲側に潜んでいるかもしれません。

この姿勢では、太もも後ろの筋肉が硬いと骨盤をに立てておくために太ももの筋肉が過剰に働きやすくなり、知らないうちに太ももの張りや股関節のつまり感、膝の違和感、腰痛を感じる傾向にあります。
ピアノと椅子との距離が近くても遠くても負担が出るわけですが、手首の痛みも現れにくい、丁度いい距離とはどこなのでしょうか。
ひとつの目安ではありますが、
- 坐骨と呼ばれる骨盤のおしり部分にある硬い骨に体重が乗り、坐骨の上に上半身・頭が位置する
- 肩甲骨が巻き肩のように広がらず、意図的に胸を張るようにして寄せすぎない
- 肩より肘が若干前に出る
になるように距離を整えてみましょう。

肩甲骨が適切な位置にあると、腕の重さを肩甲骨全体で支えられ、肘から先を脱力しやすくなります。力みがなくなることで手首の関節の動きの自由度が高くなるため、負担も少なく、運指がしやすくなります。
ですが、この状態でも背中を丸めてしまうと腕・手首への負担は増えるため、くれぐれも背中が丸まらないように頭の上から紐で引っ張られたように頭・上半身・骨盤を一直線にするイメージで座ることを心がけてみましょう。
では、ピアノとの距離を見直すことで得られるほかの効果について、実際施術を受けられた方の感想を元に簡単にご紹介します。
ピアノと椅子との距離が狭かった方が一番におっしゃられていたことです。
クラシックで高音域から低音域まで幅広く鍵盤を使う楽曲の場合、視野内に複数の鍵盤が見られる位置関係のほうが運指を行いやすくなります。
ピアノと椅子との距離が近くても遠くても肩甲骨の動きの自由度が妨げられ、肩関節をうまく動かしにくくなります。適切な距離で動かせると肩甲骨を上半身に安定して固定することができ、肩関節の動きの自由度が増します。
ピアノと椅子との距離を見直す方法以外の方法で手首周りの筋肉の柔軟性を獲得する方法として、指に関わる筋肉をストレッチするという方法があります。

猫背・巻き肩を予防するための上半身のストレッチをご紹介します。
猫背の状態が長いと肋骨の動きや背骨に当たる胸椎の動きが悪くなり、肩甲骨で腕が支えられなくなることで手首に力みがうまれます。上半身をしっかりと動かしていきましょう!
手首の痛みを楽にするピアノと椅子との距離に関して解説しましたが、それだけでは解決しないこともあります。
指のオーバーワークにより筋肉を包んでいる筋膜という膜の部分がうまく動いてくれないと、うまく筋肉が収縮しなかったり、硬くなって柔軟性が悪くなりパフォーマンスが落ちているときは、ストレッチなどのセルフケアだけでは改善しない場合があります。
その場合、筋膜の滑走性を引き出す施術や力みすぎている指の使い方を楽な状態へコントロールするボディワークが必要となります。
ピアノ奏者の方は、指の動きや手首の動きに関わる筋肉がピアノを演奏されていない人に比べてかなり硬くなっており、筋膜リリースや振動療法をすると「指の動きが軽くなった!」とおっしゃられる事が非常に多いです。
腱鞘炎やTFCC損傷といった手首の痛みを引き起こす疾患を罹患した場合、安静を必要とします。
しかし、一定の安静を超えて安静にしすぎると手首の関節組織が硬くなり、正しい手首の使い方ができなくなるために演奏パフォーマンスが落ち、再発のリスクも高まります。

整体サロンHarmonia(ハルモニア)では、ピアノと椅子との距離といった環境設定だけでなく、炎症後に硬くなってしまった手首の関節組織に対しても施術し、筋肉の柔軟性や手首の関節の軟部組織の柔軟性を改善させることで手首に掛かる負担を最小限にし、パフォーマンスアップを目指していきます。
また、その後の身体の負担を減らすためにどういった姿勢がいいのかを指導したり、どうやって腕を使っていくのがいいのか自宅でもできるボディワークもお伝えします。
張りや痛みでお困りの方は、ぜひ一度整体サロンHarmoniaにご相談ください。
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