ピアノは、長時間イスに座ったまま演奏し、リズムの速い曲からゆったりとした曲・高温から低音まで幅広く使う曲・力強く引く曲など様々な曲調があります。練習時間も1時間だけでなく2時間や3時間、長い場合は休憩をはさみながら8時間以上の方もいます。
ピアノ奏者の身体の不調として、肩こり・腕のだるさ・指の強張り・腱鞘炎が有名です。ほかにも手のしびれにつながる胸郭出口症候群や手首の痛みの原因であるTFCC損傷にもなる場合があります。座ったまま演奏するため腰痛の方もおられます。練習後の張りや痛みなどは、「練習を頑張った証拠」と捉える方もいますが、全てがそうではありません。
身体の不調を抱えたままでは、パフォーマンスは低下し練習の質も落ちます。うまく曲を演奏できないことが練習不足と安易に考えず自分の体の不調が関係していることも多いです。パフォーマンスアップを図るために、ピアノの演奏姿勢や身体の使い方を解剖学・運動学的視点からわかりやすく解説していきます。
ピアノ演奏中・演奏後に肩や腕、手首などに痛みや張りなどを感じる原因はなぜなのか。解剖学・運動学の観点から
の4つが挙げられます。
ピアノ奏者の方に多いのは、練習しすぎによるオーバーユース(使いすぎ症候群)です。ピアノ演奏は指の動きを頻繁に利用するため、ピアノを習い始めた当初は疲れを感じていても指の筋力がつくにつれ、指の疲労も慣れとともに感じにくくなります。
ピアノを1鍵盤押す力は、50g必要といわれており「案外軽いんじゃ?」と思われる方も多いですが、1曲引き続けるまでに50gを打鍵し続けるため、重たいバッグを持って肘を曲げ伸ばししたときに起こる力こぶの疲労と同じように指の筋肉にも疲労が起こります。和音になると50g以上の力が必要となるので、ピアノ練習を1時間続けるだけでも指の筋肉には疲労がたまるのです。
疲労が溜まっていても、慣れてしまっているために気づかず、張っている筋肉を押して初めて「あっ、痛い!」と気づく人も多いのです。
オーバーユースにて硬くなった筋肉は、安静で張りや疲労感がとれても筋肉の伸び縮みの機能までは回復しません。過去の練習で酷使してきた指の筋肉の伸び縮みの機能が回復していないと、筋肉が硬くなったまま現在に至るケースもあり疲労しやすいのです。
アフターケアの必要性を知っている人・教えてくれる人も少ないため、知らず識らずに疲労が積み重なり、痛いと気づいたときには腱鞘炎やばね指になっているのです。
ピアノ奏者の方で、肩こりや腰痛などを起こす方に多く見られる姿勢として、猫背・巻き肩・頭を前に突き出した姿勢があります。
猫背・巻き肩では、肩甲骨が外側に広がります。
肩甲骨が外に広がると背中にある筋肉である大菱形筋・小菱形筋・僧帽筋といった筋肉が筋力低下を起こし、腕を動かす際に肩甲骨を支える能力が低下します。
背中の筋肉低下にあわせて、胸の筋肉である大胸筋・小胸筋と肩甲骨から脇腹についている前鋸筋が肩甲骨を安定させるために過剰にはたらくようになります。
大胸筋・小胸筋・前鋸筋が過剰に働くと、肩関節が本来ある位置関係からずれてしまい、打鍵時に肩・腕の筋肉である三角筋前部や上腕二頭筋・上腕筋・腕橈骨筋といった筋肉に疲労が起こり硬くなっていきます。
肩・腕の筋肉の張り・硬さは、筋膜を通じて前腕・指の張り・硬さを引き起こす原因となり、結果として肩の痛み・腕の痛みだけでなく腱鞘炎やばね指といった指先の繊細な操作のパフォーマンスを落とす疾患につながるのです。
ピアノ演奏中の姿勢は、鍵盤に向かい合うように座って演奏し、空間に腕を保持するため、鍵盤に腕の重さをうまく預けながら打鍵できないと、腕が力みやすくなるため、疲労を伴い、筋肉が硬くなってきます。
左右端の鍵盤を打鍵する際、上半身の重心を左右のお尻に移動させて手をリーチさせます。重心移動にあたって上半身の使い方を間違えると動かし方によって腰や股関節の筋肉が力み、姿勢の崩れや腰痛の原因となります。
ピアノと身体との距離や高さが自分にあっていないと、肩・腕・手首・指への負担は増えます。
身体とピアノとの距離が近いことでフィンガリング中の腕の操作が窮屈になりやすく肩関節に負担をかけやすくなります。逆に身体がピアノより遠いと、腕を空中で保持している時間が長くなることで腕周りへの負担が大きくなります。
低音域・高音域への手の移動の際に腕全体から手の位置を移動できるか、遠くの鍵盤を打鍵するときにしっかりと左右のお尻に体重移動ができるかも重要になるため、身体とピアノとの距離は大切になります。
ピアノを演奏している方は慣れていてわかりにくい感覚かと思いますが、鍵盤は思いの外重たいものです。時に強く、時に早く、長い曲を弾くこともあるため、指の疲労は起こりやすくなります。
では実際に確かめてみましょう!ピアノを弾くみなさん、手のひらを開いてパーにしてみてください。
指先は5本の指すべて楽に伸びますか?手のひら・指の腹は突っ張らずに自然と伸ばせていますか?
写真のように指を伸ばそうとしても曲がったままで手のひら・指の腹が突っ張る方は、指の筋肉が張って硬くなっている状態であり、フィンガリングのパフォーマンスは低下しています。
指が伸び切らない状態のまま演奏を使い続けると、腱鞘炎やばね指といった指・手首に関わる痛み・違和感の原因となります。手首や指の負担が限界になると、前腕・上腕・胸部の筋肉・脇の筋肉にも無駄な力みが生まれ、筋肉の張りが出て硬くなることで腕の張り、肩こりが起こるのです。
今までできていた難しいフレーズや連符などが引きにくいと感じている方は、練習不足だけではなく、指に関わる筋肉の疲労も疑ってみましょう!
肩・腕・手首・指の問題は、上半身の姿勢の崩れからも起こりえます。チェックしたいのは以下の項目。
- 座った時に左右の肩の高さはそろっているか?
- 椅子に座った時に猫背になっていないか?
- 骨盤を立てることを意識するあまり腰を反りすぎてないか?
- 体重がお尻全体に均等に乗っているか?
自分の姿勢を客観的に見ることありませんよね?試しに演奏中の姿勢を横からと背中から撮影してみてください。姿見鏡の前に椅子を持っていき座っている姿勢を自分で確認するのもいい方法です。自分の姿勢を客観的に捉えることで、自覚していなかった姿勢の崩れを知ることができます。
崩れた座位姿勢の一例をご紹介します。写真をみていただくと
- 右肩下がり
- 脊柱が左側に凸に弯曲
- 上半身の重心がお尻の左側にずれている
が見てわかります。写真の姿勢の崩れはピアノ奏者にも見られる傾向があり、左脇腹の筋力低下や右脇の下から脇腹にかけての柔軟性低下、左首〜肩の張り・痛み、右腕の張りといった症状がみられたりします。
今まで上げてきた、ピアノ演奏における不調の原因に対して、どのような対処法があるのか
の4つをご紹介します。
まず実行しやすい環境設定についてお話します。
ピアノの椅子の高さは、腕・手首・指の力みを減らすのに一番直結します。肘・手首・鍵盤との位置関係を調節することで指先の力の入れ方を変えることができます。
手首の位置よりも肘の位置が低い状態での演奏は、運動学的に上腕二頭筋と腕橈骨筋という筋肉に過度な負担が働き、張りやすい状態です。手首も手のひら側にやや曲げているため力みやすくなります。
鍵盤から指をはなす際、写真のように指の付け根の関節(MP関節)を必要以上に反らし、指先の関節(PIP/DIP関節)を曲げて使うため、必要以上に指を曲げる筋肉など負担がかかります。腕・指を必要以上に力まず使うためには、鍵盤に手を置いたときに手首が肘と同じ高さ〜少し下に位置するよう椅子の高さを設定できるといいですね。
肘の位置が鍵盤よりもかなり高い位置になると、指先が動かしやすいように手首の位置を調節するため猫背になる原因になります。椅子の高さを微調整して、自分の演奏しやすい鍵盤に対する肘の高さを見つけてみてください!
ピアノと自分の上半身との位置関係ですが、遠すぎると腕を鍵盤まで伸ばす動作が必要となり、肩周囲の負担が増えるとともに腕の重心が身体から遠くなるため猫背になります。反対に身体が近いと、肘が肩よりも後方に位置しやすくなり、上腕に力みを生じやすくなります。
鍵盤に手を添えた際に肘の前面、上腕に力みが出ない距離感に調節してみましょう。
猫背は、楽器演奏にとって負担のかかる姿勢の典型的な例です。
腕の疲労だけでなく、肩こりや首の痛みが起きやすくなるのも猫背が大きく関係します。前述した椅子の高さ・ピアノと身体の距離感を調整するだけでも猫背の予防になります。
写真の女の子の場合、骨盤が後ろに寝てしまっている状態であるため、股関節の付け根にある腸腰筋という筋肉や、背筋を伸ばすために必要な脊柱起立筋という背筋の弱さもあるため意識的に背筋を伸ばす必要があります。
その際、頭の直上から紐をつけて天井へ引っ張られているように姿勢を正すことを意識してもらうと良いでしょう。
硬くなって張ってしまった筋肉は、ストレッチにてほぐすのも重要です。今すぐできるストレッチをご紹介します。
肩甲骨・肩関節を動かして、硬くなっている筋肉を伸び縮みさせて血行を促し、ほぐしていく方法をご紹介します。YouTubeにて肩甲骨周囲の筋肉を動かすストレッチをご紹介していますのでぜひご覧ください。
運動する目安は、肩甲骨周りがしっかりとポカポカしてくるかどうかです。動かすと疲れるかもしれませんが、普段動かしていない筋肉を動かすことにもつながるので継続して行ってみてください。練習前後に行うことをおすすめします!
次に、フィンガリングなどで疲労を起こしている指の筋肉に関してのストレッチのご紹介です。YouTubeにてストレッチを紹介していますのでご参照ください。
以前あげたブログ記事でも、前腕・指の張りに対するストレッチをご紹介していますのでそちらも合わせてを参考にしてください。
指のこわばり、腱鞘炎、ばね指を予防する【指・手首の強張り予防のストレッチ】をご紹介します!環境設定の見直しやストレッチ・体操などをお伝えしましたが、これらのことを行っても変化がない場合は、体幹の筋力が弱くなり、上半身が安定しないことで肩甲骨・腕周りに必要以上の力みが生じています。
YouTubeの動画にて体幹・肩甲骨周囲の安定性を高めるエクササイズを紹介していますので参考にしてみてください。
他にも、
- バランスボールに骨盤を立てた状態で座ったまま静止する
- バランスボールに座った状態で腰が丸まらないよう注意しながら軽く足踏みをする
- 足上げ腹筋(下腹部・股関節の付け根で脚を持ち上げてくるようにする)
といった方法もあります。スポーツマンほどムキムキな筋肉を付ける必要はありませんので、上半身の安定性を演奏中に維持できる筋力をつけるイメージです。
「ストレッチを色々試したけど手首の痛みが良くならない」「トレーニングをやって身体を整えたいけど何からはじめたらいいかわからない」などセルフケアがうまくできないこともあります。
そのようなときは、YouTubeなどの動画に頼るのではなく、身体のケアに関して専門家に相談しましょう!
ハルモニアは、音楽家に特化した身体のコンディショニングを行っております。ストレッチ・トレーニングの方法をご利用いただく方の身体の使い方に合わせて選択してアプローチしております。
演奏効率を高めるための身体の使い方をボディワークなどを通してお伝えすることも出来ますのでお気軽にご相談ください。
ピアノ奏者の肩こり・腕の張り・腱鞘炎・腰痛が起こる原因と対処法についてご紹介しました。考えられる原因をみてハッとした方もいるのではないでしょうか。
慣れた曲を弾いているときに指の動きにくさを感じたら、練習不足を疑うよりも指の筋肉の疲労を疑ってみるのが不調改善の近道かもしれません。放っておかず、早めに不調を解消しましょう。
熊谷市石原にある整体サロンHarmonia(ハルモニア)では、演奏姿勢や身体の使い方から不調の原因を全身から総合的に判断し、オーダーメイドの施術を行っています。対処療法だけで楽器演奏につながる身体の使い方を見直せずにお困りの方はぜひご相談ください。
できる限り、長い間演奏を楽しんでいただけるようにハルモニアは全力で音楽をされる方をサポートしていきます!
整体サロンHarmonia(ハルモニア)は完全予約制です。以下の予約フォーム、LINE、お電話のいずれかでご予約ください。
※オンラインでの楽器奏者のコンディショニング相談に関しては、予約フォームあるいはLINE予約よりご予約ください。
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