「ロングトーンの練習中、気づくと首が前に出ている」
「合奏の後半になると、左の首筋から肩にかけて重だるい痛みが走る」
フルートは管楽器の中でも特殊な完全な左右非対称の姿勢で演奏する楽器です。美しい音色を奏でるために、知らず知らずのうちに体に無理を強いていませんか?
首の痛みや手のしびれを「練習熱心な証拠」として放置するのは危険です。最悪の場合、慢性的な不調により演奏活動の休止を余儀なくされることもあります。
この記事では、多くのフルート奏者を悩ませる「首の痛みのメカニズム」と、解剖学に基づいた「負担を最小限にする構え方(フォーム)」について、専門的な視点から解説します。
結論から言うと、フルート奏者の首の不調は、不自然な回旋(ひねり)と頭部の前方突出の掛け合わせによって発生します。
原因と症状の関係を表にまとめました。
| 原因 | 具体的な状態 | 身体への影響 |
|---|---|---|
| 構造的な要因 | 顔を左に向け続ける | 右側の首の筋肉が伸ばされ、左側の首の筋肉が縮み続ける |
| 姿勢の崩れ | 頭が上半身より前に出る | 重さ約4〜7kgの頭を首の後ろの筋肉だけで支えることになる |
| 構え方の癖 | 楽器を身体に引き寄せすぎる | 左肩が力み、右肩甲骨内側が緊張する |
| 視線の問題 | 譜面台が低い・位置が悪い | 覗き込む姿勢になり、頚椎のカーブが崩れる |


これらが複合的に絡み合い、特定の筋肉に負担がかかることで筋肉が硬くなり、血行不良が起きることで痛みを引き起こします。
「首が痛い」と一言で言っても、実は負担がかかっている筋肉は場所によって異なります。ご自身の痛みはどこに近いですか?
胸鎖乳突筋は、耳の後ろから鎖骨にかけて走る、首の横から前側につく太い筋肉です。
頭を左右に回す・頭を左右に倒す・頭を前方に突き出す動きに関わり、フルート演奏においては呼吸にも使われます。
猫背になり、頭が前方突出している状態になると胸鎖乳突筋に過度な負担が掛かり痛みが起きやすくなります。
練習後や本番後に、頭痛やめまいを感じる方は胸鎖乳突筋が硬くなっている傾向にあります。

僧帽筋上部線維は、後頭部・頚椎から肩先に向かて走行している筋肉です。
肩甲骨を持ち上げる/寄せる/上方回旋する・首を同じ側に倒す・首を反対側へ回す動きに関わります。
楽器を構えたときに両肩をすくめるように力が入ってしまっていたり、意図的に両肩を下げて構えようとしたときに張りが起こりやすく、典型的な肩こりの原因の一つです。
また頭が前方突出したときにも左側の僧帽筋上部線維が縮こまりやすく首の付け根の痛みの原因となります。

頭板状筋・頚板状筋は、首の後ろ側にある深層の筋肉です。頭板状筋は頚椎と後頭骨・側頭骨につながり、頚板状筋は、胸椎から頚椎へつながっています。
左右同時に働くことで首を後ろに倒す、片側が働くことで同じ方向に頭を倒す・回旋させる動きに関わります。
正しい位置で首を左に向けている状態では、常に左側の頭頚板状筋が働いており、頭が前方突出することでより負担が強調されます。
首の後ろ側の痛みを感じる左側だけ張りを感じるなどの場合、この筋肉が硬くなっている傾向にあります。

左首の痛みを予防する上で重要なのは、演奏姿勢です。目指すのは、解剖学・運動学に基づいたバランスよく支えるフォームです。
首の痛みのことを考えると、身体とフルートが密着している方が首を左回旋させなくて良いのではと考える人も多いかもしれません。
実は、フルートが身体に近い状態の場合、左胸の筋肉に余計な力が入りやすく、結果として左側の胸鎖乳突筋に過剰な緊張が生まれます。
譜面台に対してフルートは平行、上半身・骨盤が30〜45度開いた状態で、頭・首・胸・腰・脚が一直線に並んでいる状態で、首が左回旋している状態だと負担が最小限になります。

フルートを構える際に、フルートが右下がりになり、それに伴い頭を右側に倒しながら吹く人が一定数います。これは、1752年にヨハン・ヨアヒム・クヴァンツというフルート奏者が出版した『フルート奏法試論』にて提唱したフルートの演奏姿勢に基づいて現在も指導されていることに由来します。
頭の重さは約4〜7kgであり、体重の約10%と言われ、頭が前方に傾く角度で首にかかる負担が変わります。同様にフルートを構える際に頭を右に倒すと左首に負担がかかるのです。
頭を右に倒したままで演奏を1曲続ければ負担がずっとかかり続けるため痛みは起こりやすくなります。そのため、頭は、身体に対してまっすぐに位置するよう構えましょう!

フルートを唄口・左人差し指・右親指の三点で支える方法で構える方が多いかと思います。このとき、唇でも楽器を支えようと上半身よりも頭が前方へ突き出てしまう方がいます。
頭が前方突出してしまうと猫背や巻き肩になりやすく、首の痛みの原因となるため、左手の人差し指を視点にし、右手親指で前側に軽く押す力を入れることで、唄口を唇に当てることができます。
できる限り、背筋を立てて猫背にならないよう注意して行いましょう。
長時間の練習後は、筋肉は縮こまったまま硬くなっています。練習の合間に行えるストレッチを行って血流を戻しましょう!
※痛みやしびれが出る場合は、直ちに中止し、医師に相談してください。
僧帽筋上部のストレッチをご紹介します。ストレッチ強度は「痛気持ちいい」程度です。
- 頭を右に向ける
- 右手を後頭部にかける
- 左手を背中に回し肩甲骨を下げる
- 右腕の重みを使って首を前横方向へ倒す
- 20秒2セット程度行う

ストレッチをしたあとに手がしびれる・頭がぼーっとしてしまう・気持ち悪くなってしまうなどの症状が出てしまう方は無理に行わないようにしましょう。
整体サロンHarmoniaのYouTubeでも紹介していますので、ぜひ参考にしてみてくださいね!
首の横から前側についている胸鎖乳突筋のストレッチをご紹介します。結構硬い方多いのでゆっくりとやってください。
- 両手で胸を押さえ、右を向く
- 頭の重みを使って後ろへ倒す
- 20秒程度2セット伸ばす

首の後ろ側が詰まった感覚や痛みが出る方は無理に行わないようにしましょう。
整体サロンHarmoniaのYouTubeにも動画を載せているので参考にしてみてくださいね!
フルート奏者の首の痛みは、気合や根性で解決するものではなく、「姿勢における構造の問題」です。
左右非対称な演奏姿勢であるからこそ、少し工夫してあげるだけで首・肩への負担は軽減し、ストレッチを行うことで疲労した筋肉をほぐすことにつながります。
身体の状態が整うと音の響きが変わったり、長時間の演奏も楽になりますよ!
セルフケアを行っても痛みが引かない、演奏フォームがどうしても定まらないという方は、一度ご自身の身体の癖を客観的に見る必要があります。
整体サロンHarmoniaでは、あなたの演奏姿勢を分析し、筋肉の緊張をゆるめ、使えていない筋肉を正しく使うため楽器奏者のコンディショニングを行っています。
解剖学・運動学の視点から「演奏しやすい身体づくり」をサポートしています。
痛みを我慢して音楽を諦めてしまう前に、ぜひ一度ご相談ください。オンラインでもフォームチェックやコンディショニングの相談に対応しております。

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