楽器で演奏練習をされているみなさん、新しい曲や難しい曲を練習する際に引けないフレーズを必死になって繰り返し何時間も反復練習したりしていませんか?
実は、その習慣が演奏中の身体の不調を引き起こす大きな原因になっているかもしれません。
- 腱鞘炎
- ばね指
- 上腕骨外側上顆炎(テニス肘)
- 胸郭出口症候群
- 頸肩腕症
これらの音楽家がなりやすい症状は、オーバーユース(使いすぎ症候群)にて起こっている可能性があります。(もちろんオーバーユースだけでなく、姿勢の問題もありますが、ここでは触れません。)
同一姿勢を取り続けることも含めて、使い続けることで起きる症状になります。
では、オーバーユースを起こさないように練習を積むためにはどうしたら良いのでしょうか。
ストレッチ、トレーニング様々ありますが、今回は「イメージトレーニングが有効」であることを解説していきたいと思います。
オーバーユースについて解説していきます。オーバーユース(使いすぎ症候群)とは、身体の一部に長期間負荷がかかり続けることによって起こる筋肉や腱、靭帯、骨、軟骨などの障害の総称です。過度な運動や不適切な練習法(身体に合っていない器具の使用や無理などレーニング)が主な原因といわれています。
スポーツの分野でよく使われる言葉ですが、楽器演奏する方にも多く当てはまります。楽器演奏は同一姿勢で特定の動きを繰り返し行うことが多く、その状態で肩・腕・手・指を使い続けることで疲労・炎症を起こし、痛みに変わります。
炎症を起こしてしまったらまずは安静になりますが、炎症症状が落ち着いて痛みが取れていたら大丈夫…ではありません!炎症を落ち着かせるためにただ何もせず休んだだけでは練習後の筋肉疲労は完全に取れません。
演奏練習に慣れてしまっていると、疲れが取れたから大丈夫と錯覚しがちになりますが、指を曲げる筋肉が伸びずに硬くなっている場合が多くあります。Harmoniaをご利用いただいている音楽家の方々は、みなさん指の動きの硬さがあるにも関わらず自覚がありませんでした。ほぐしたら「あ!軽くなった!」という言葉が出たくらいです。
気づかないうちに筋肉を酷使している状態が続くと指・手・腕がオーバーユースを起こしたり、最悪フォーカルジストニアにつながるかもしれません。
そうならないために、役立ててほしい方法があります。それが、イメージトレーニングです。なぜ、イメージトレーニングがオーバーユースの予防につながるのか、それを研究した海外の論文がありますのでご紹介します。
1995年にハーバード大学のアルバロ・パスカル=レオーネ教授らが行った研究があります。
Modulation of Muscle Responses Evoked by Transcranial Magnetic Stimulation During the Acquisition of New Fine Motor Skills
という研究論文です。
では、解説していきます。
18人の被験者(男性9人、女性9人)にパフォーマンステスト及び指屈筋・伸筋にあたる皮質運動野のTMS(経頭蓋磁気刺激)マッピングを行ったのち、被験者を男女3名ずつ3グループに分けられました。
パフォーマンステストは
「親指→人差し指→中指→薬指→小指→薬指→中指→人差し指→小指」の一連の指を動きを行うが、メトロノームにて毎分60拍子のリズムに親指と小指の動きを合わせ、その他の指は、1拍子の間にスムーズに、間を置かず、どのキーも飛ばさないように上記の順番で動かす
この動作を20往復行う
というもの。
TMSマッピングは、その20~30分休息後に行われました。
グループの課題はそれぞれ以下のようになっています。
・片手(右手)5本指の運動を行う
・パフォーマンステストと同様のルールに従って練習
・個々のキーを押す感覚を一定に保ち、各キーを押す時間と速度を同じにするように注意してもらう
・毎日2時間、5日間の練習
何もしない
・毎日2時間、右手のみを使ってピアノを自由に弾く
・一度に1つの鍵盤だけを押す(2鍵盤を同時押しは✕)
・パフォーマンステストと同様の指の動きはNG
5日目にグループ2・3も1と同様の練習を行った後にパフォーマンステストとTMSマッピングを実施しました。
結果として、
- グループ1は、演奏技術の向上がみられ、キーを押す順番のミスが減り、キーを押す間隔のばらつきも少なくなりました。また、筋電図も操作した手の方で活性化しておりTMSマッピングも皮質出力マップの拡大がみられた。
- グループ2は、変化なし。
- グループ3は、筋電図での活性化はみられたものの、グループ1よりもわずかであり、TMSマッピングはほとんど変化がみられなかった。
と報告しています。
実験2の対象者は15人(男性9名・女性6名)。
まず、被験者全員に
「親指→人差し指→中指→薬指→小指→薬指→中指→人差し指→小指」の一連の指を動きを行うが、メトロノームにて毎分60拍子のリズムに親指と小指の動きを合わせ、その他の指は、1拍子の間にスムーズに、間を置かず、どのキーも飛ばさないように上記の順番で動かす
の5本指動作を指導した後、以下の3グループに分けました。
・5日間、毎日2時間の5本指運動をピアノを使って行う
・5日間、毎日2時間ピアノの前に座り、自分が5本指運動の指を動かしている様子をイメージしたり、音を想像する
・5日目のイメージトレーニング後、2時間の演奏練習を行う
何もしない
どのグループも実験1のときに行ったパフォーマンステストとTMSマッピングを毎日セッション後に行いました。
結果として、
- グループA・Bともにパフォーマンステストでのキーを押すエラーやオス間隔のばらつきが少なくなった
- グループBはイメージトレーニングだけだったが、グループAの3日間の身体練習を行ったときと同等の筋の活性化がみられた。
- グループBは、5日目のイメージトレーニング後に身体練習を2時間行っただけで、グループAの5日目と同じレベルで筋の活性化と脳活動範囲の拡大がみられた。
と報告しています。
実験1からわかることは、目的の演奏動作を反復練習することで、運動学習が進み、指の動きに対する筋肉・脳の働きが高まるということです。
逆に、目的なく指を動かしても演奏動作自体が上達することはないということです。
実験2でわかることは、5日間毎日2時間の演奏練習と、5日間毎日2時間のイメージトレーニングと1回の演奏練習の成果はほとんど同じであるということです。
これらの実験から、リズムに沿った反復練習が運動学習効果を高め、演奏の習得の効率が上がることはわかりましたが、それをただ続けていては疲労が蓄積しやすくなります。
ストレッチなどのケアがしっかりとわかっていれば良いですが、まだまだ知らない人も多いため、イメージトレーニングと併用することで、疲労の蓄積をせず、演奏技術の蓄積ができるというのは、不調の原因を最小限にする良い手段となるかと思います。
いかがだったでしょうか。イメージトレーニングの効果は、大きいですね!今回の例は、ピアノでの実験でしたが、ピアノに限らずどんな楽器でも当てはまることであると推察できます。
練習時間がなかなか取れないときに、イメージトレーニングを効果的に使うことができれば、短い練習時間で高いパフォーマンスを発揮できる可能性も秘めています。うまく演奏できなくてがむしゃらになっている方、モヤモヤしたりイライラしてしまう方は、イメージトレーニング後の練習は有効そうですね。ぜひ、イメージトレーニングを練習に役立ててみてください。
イメージトレーニングなど、身体を使う頻度を落としても指の動きの悪さや腕の疲労感などが解決しない場合は、筋肉根本の問題が残っている可能性が高いです。そういった身体の不調に関しては、身体の使い方から再構築していく必要がありますので、Harmonia(ハルモニア)に是非ご相談ください。
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