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ギター奏者の親指が曲がってしまうジストニアについての考察

ギター奏者の親指が曲がってしまうジストニアについての考察

 Harmoniaでは、ほぼ毎週水曜日21:00ごろから【音楽家の身体ケア相談室】と題して楽器演奏者の方に向けたYouTube Liveを行っています。

その中でとあるギタリストさんから「右手親指がサムズアップの形を作ろうとしても指が立たないのですが、対処法はありますか?」とご相談をいただきました。親指が腕の動きに合わせて親指が内側に閉じる力が意図せず入ってしまうジストニアにお悩みでした。ライブ配信中はコメントでお話を聞きながらその場でできるセルフケアの方法をお伝えさせていただきました。

そこで今回は、ライブ配信内でお話したことを含め、親指のジストニアへの考察と実際試していただいたことを解説していきます。ギターを演奏されている方、親指の動きのお悩みがある方などの一助になれば幸いです。

ギタリストに起きていた親指のジストニアとは?

ギタリストさんに起きていた親指のジストニアの特徴は

  • サムズアップの動きのように親指を外に開こう(外転・伸展)させようとすると内側に引っ張られてしまう(閉じてしまう)
  • 前腕を回内するときに回外方向へ引っ張られる感覚がある
  • 前腕を回内すると親指が内側に曲がってしまう
  • スプーンで混ぜたりすくったりするときにも回内に引っ張られる感覚と親指が内側に曲がってしまう

私が考えた親指のジストニアの仮説

ジストニアの症状についていただいたコメントからどんな原因が考えられるかいくつかの仮説を立てました。

母指内転筋が収縮を起こしやすい状態になっている

母指内転筋は、第3指の中手骨から母指基節骨底に向けて三角形の形で走っている横頭という部分と、第2,3指の中手骨底から母指基節骨底に走っている斜頭があります。

母指外転筋群を実際の手のひらに図示した写真です。
母指内転筋の位置

ギター奏者は、弦を弾くこと・ピックを持つことで母指内転筋を多用します。演奏者自身は気づきにくいのですが同じ動きの繰り返しはオーバーユース(使いすぎ症候群)につながります。オーバーユースをすることで筋肉が通常よりも強い緊張状態となり場合によっては筋硬結という筋肉のこりが出現することもしばしばです。少しの刺激でも親指を曲げる力が過剰に働いてしまうことにつながります。

そのため、原因の一つとして母指内転筋の異常が疑われます。

長母指外転筋が筋機能異常を起こしている

長母指外転筋は、母指内転筋と拮抗的な働きをする親指を外転(開く)する筋肉であり、この筋肉がうまく収縮できないと母指内転筋が過剰に働きやすくなります。この長母指外転筋は、前腕回外動作にも活用される筋肉であり、ギターの弦を上方向へ弾く際の動きにも筋活動が起こります。

示指伸筋・長母指伸筋・長母指外転筋を実際の前腕に図示した右手の写真です。
弦を右手で弾く際の長母指外転筋を図示した写真

筋肉には、『相反抑制』という主な動作に使う筋肉(主動作筋)が収縮すると反対側の動きを働く筋肉(拮抗筋)がゆるむという神経機構があります。

ジストニアの症状が出ている母指内転筋が主動作筋とすると長母指外転筋の活動性が拮抗筋であり、ピックを持つ時間がなかかったり力が強くなることで、長母指外転筋の活動性が低くなりうまく収縮できなくなることで親指を外に開けなくなるため、より母指内転筋に過剰な緊張が起きてしまう可能性があります。

長母指伸筋が筋力低下している

ギター奏者は、親指で弦を下方向に弾くことはあっても、上方向に親指だけを開いて弾くことはほとんどありません。親指をその場で固定したまま、前腕を回外させて上へ弾くことが多いかと思います。また、ピックを持つ時間が長くなればなるほど、長母指伸筋の活動性は低下します。そのため、長母指伸筋の筋力低下を起こす可能性が高いと考えられます。

前腕回外に必要な筋肉が適切に活用できていない

前腕回外に必要な筋肉には主に

  • 回外筋
  • 上腕二頭筋
  • 長母指外転筋
  • 腕橈骨筋(前腕回内位にて作用)
  • 長橈側手根伸筋(前腕回内位から中間位まで作用)

があります。前腕回外に関わる筋肉がオーバーワークし、筋肉が硬くなった状態や過緊張し筋収縮が適切に行えない環境になっている場合にうまく前腕回外の収縮が起きない可能性があります。

結果として前腕回外動作をしたときに回内方向へ引っ張られる力、親指が内側に閉じてしまう(内転)症状がみられたと考えることができます。

解決策は?

ライブ配信でのアーカイブに今回ピックアップした問題に対するアプローチとして

  • 母指内転筋の過緊張に対するマッサージ・ストレッチ
  • 長母指外転筋へのテニスボールマッサージ
    ※動画内では長母指伸筋の過緊張とたくさんいってますが、長母指外転筋です
  • 長母指伸筋・長母指外転筋の再教育エクササイズ

を提案しました。

母指内転筋の過緊張に対するマッサージ・ストレッチ

母指内転筋の過緊張に対するマッサージは、反対側の手の親指やゴルフボールなどを用いて母指内転筋横頭・斜頭の起始・停止部を押圧したり揉んだりすることで行えます。マッサージ強度は、痛気持ちいい程度です。やりすぎるともみ返しや親指を握る力が入りにくくなったりしますので注意しましょう。

ストレッチは、母指球筋を伸ばすように行います。以下の動画の後半に出てくるストレッチを行ってみましょう。

長母指外転筋へのテニスボールマッサージ・ストレッチ

長母指外転筋へのアプローチは、長母指外転筋が過緊張状態になって硬くなり、適切な収縮機能を補修していない状態から開放するという目的で行います。

長母指外転筋へのテニスボールマッサージですが、テニスボールや以下のようなトリガーポイントボールを先に説明してきた長母指外転筋のあたりに対してゴロゴロと転がすようにほぐします。


合わせて、長母指伸筋を伸ばすためのストレッチは、以下のYouTube動画を参考に行ってください。

ほぐした長母指外転筋をストレッチすることで、筋の長さを引き出し、収縮がしやすい環境を整えます。

長母指伸筋・長母指外転筋の再教育エクササイズ

長母指伸筋・長母指外転筋の動きが著しく低下しており、母指内転筋の筋収縮が過剰に働くようになっていると仮設を立てたことから、正しく収縮能力が発揮できると相反抑制という人間に備わった神経機構が働き、母指内転筋の不随意収縮を抑えることにつながると考え、左手で補助を加えながらサムズアップの動きを行ってみてくださいとお伝えさせていただきました。

実際に試していただいての変化は?

ライブ配信内で、母指内転筋のストレッチによって硬さは緩み、テニスボールマッサージや手首のストレッチで前弯の回内外の動作が楽になったとのコメントをいただきました。

長母指伸筋や・長母指外転筋の促通は、正直瞬時に変化の出るものではないため多少やりやすくなったようなというお話はあったももの、底まで大きな変化ではなかったようです。

ただ、長母指伸筋や長母指外転筋の部分を親指の腹でマッサージしてた際に痛気持ちいい感じがあったとのお話もあったため、長母指伸筋や長母指外転筋にも過剰な筋緊張があり、正しく機能しない原因の一つがあったことがわかりました。

そのため、母指内転筋のジストニアのきっかけとして

  • 前腕回外筋として使われる長母指外転筋が過緊張しており、筋収縮しにくい環境がある
  • 母指内転筋の過緊張によりジストニアが起きやすい環境があった

ということがわかったことになります。

しかし、これだけですべてのことがわかった!判断できた!というわけではありませんし、同じ症状が出ている方でも同じ方法で変化が出るかはわかりません。

そのため、個人個人に合ったアプローチが必要であると私は考えています。

実際のライブ配信アーカイブ

相談から対処法アドバイスまではライブ配信のアーカイブにあります。ぜひ一度御覧ください。

ギタリストのジストニアの症状に対する考察をしているところから始まります。

まとめ

 今回は、ギター奏者の右手親指のジストニアについて考察と実際行ったセルフケアの方法について解説しました。オンラインでも症状や実際の動作を確認することで特定できることもあるためセルフケアの方法を提示することができます。

しかし、実際に筋肉の状態を確認しているわけでないので筋肉の硬さがあるかどうかまでわからないのがオンラインの難しいところです。店舗で対応できるとオンラインよりも対応できる幅は広がります。

フォーカルジストニアは、元の動きに戻るまでには時間を要するといわれています。しかし、動きのいいイメージが付くと楽器奏者の方の感覚はとても繊細であるため、変化が起こりやすいことを楽器奏者の方のコンディショニングを行う中で感じています。

いかに丁寧に「動きの悪いイメージをいいイメージに塗り替える」かがとても大事です。がむしゃらにやって悪化することはあっても良くなることはないと言っても過言ではありません。

ハルモニアは、他の記事でも話しているように楽器奏者のコンディショニング(心身ともに整えること)はとても重要であると考えています。なぜなら、楽器奏者の不調の多くは前触れ無く突如訪れることが多いからです。「私は大丈夫!」と思っていても不調を急に感じることがあります。

違和感や張りを感じた段階で体の不調に関して相談できるとジストニアを改善させることにつながるかもしれません。

Harmoniaはフォーカルジストニアのリハビリにも対応しています!

 整体サロンHarmoniaは、楽器奏者の身体の不調に真っ向から向き合い、症状の改善・パフォーマンスの向上をサポートしています。必ず演奏姿勢・動作も踏まえて症状の原因を追求するため、他の治療院とは異なる提案ができます。

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